労働力不足に関する関東運輸局長からのメッセージ
令和5年6月吉日
労働力不足に関する関東運輸局長からのメッセージ
私たちの日々の生活や経済活動は、機械製品から生鮮食料品、廃棄物などに至るまで様々な物資が港や空路のゲートウェイにおける荷役を通して道路、海上、航空、鉄道を通じて輸送され、各地の物流施設等での保管や流通加工のプロセスを経て、必要な場所に必要とされるタイミングで輸送されることで維持されています。
こうした物流の機能は、一般の消費者からは見えにくい活動であるものの、我が国における豊かな国民生活や産業競争力、地方創生を支える重要な社会インフラであり、人口減少や国際経済の不確実性の増大、新型コロナウイルス感染症の流行など社会環境が大きく変化する中にあっても、経済の持続的な成長と安定的な国民生活を維持するため、決して途切れさせてはならず、その機能を十分に発揮させていく必要があります。
また、四面を海で囲まれた我が国においては、生活や産業を支えている物資の輸出入の99.6%を海上輸送に頼っているほか、島しょ部と本土をつなぐフェリーや貨物船が島での暮らしに不可欠な輸送手段となっているなど、海上輸送や、海上輸送と陸上輸送を結ぶ港湾運送は、交通・物流のネットワークの一部として非常に重要な役割を果たしています。
さらに、路線バスやタクシーといった地域交通は、地域の暮らしと産業を支え、大都市部、地方部を問わず、豊かで暮らしやすい地域づくりや個性・活力のある地域の振興を図るうえで不可欠な基盤的サービスであり、加えて、高齢化の進展や、高齢者による運転免許証の自主返納が進みつつあり、自家用自動車を運転できない高齢者等の移動手段として、その重要性はますます増大しています。
物流も地域交通も、国民生活を支えるかけがえのない産業です。日々運送を続けることで社会に安心や豊かさを提供しています。ドライバー・船員・港湾労働者をはじめ、そこで働く人々はヒトやモノの動きという経済の最前線の基盤を支えています。産業として社会的な貢献は極めて大きいと言えます。
しかしながら、こうした物流や公共交通分野の各産業においては、少子高齢化による生産年齢人口の減少に加え、2024年度から開始するドライバーへの時間外労働の上限規制の導入等により、深刻な労働力不足に直面しています。また、船員や港湾労働者についても今後労働力不足が増していくと予想されており海上運送に大きな影響が生じかねません。ドライバーや船員・港湾労働者不足の対策が講じられない場合、倉庫に生活必需品が滞留し小売店に配送できない、コロナ禍が平静化し人手が戻って来つつある中でバスが増便できないなど、国民生活に様々な支障が生じるおそれがあります。
加えて、国内の移動の大半を担う自動車の整備についても、労働力不足が課題となっています。自動車の整備に求められる技術も高度化している一方で、自動車整備士になる若者が減少し、自動車整備業の有効求人倍率は4.55 となるなど、人材不足は深刻な課題となっています。このままでは、最寄りの整備工場で修理が出来ない、修理に長期間の時間を要し日常生活に支障をきたすような社会問題が生じかねません。
また、宿泊業をはじめとした観光産業は、観光地の付加価値を高めることによって、観光を通した国内外との交流人口の拡大により地域を活性化させ、得られた収益を地域間で循環させる経済成長のポテンシャルを持っています。しかしながら、コロナ禍における観光客の激減による離職により、未だ観光産業における労働力は十分に回復していません。空室はあるのに宿泊客を受け入れられない、部屋食を提供出来ないといった弊害が起きています。DX 等を活用した持続可能な観光を推進していくためにも、観光産業における労働力確保は極めて重要な課題です。
関東運輸局といたしましては、バス・タクシーにおける運賃改定の実施による労働条件の改善や、二種免許取得費用の支援、働きやすい職場認証制度の普及促進、運輸支局長等による高校訪問の実施や自動車整備士など所管業界の魅力や重要性を発信するイベント、地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値化事業をはじめとする各種取組を通して、関係者と連携しながら労働力不足に対応してまいります。関係事業者の皆様におかれましては、労働力不足に関してお困りごとがございましたら、運輸局各部や運輸支局に遠慮無くご相談ください。また、利用者・荷主企業の皆様におかれましては、こうした物流・公共交通・観光分野が直面している労働力不足の現状をご理解いただくとともに、再配達の削減や非効率的な商慣習の改善等に取り組んでいただきますよう、お願いいたします。
関東運輸局長 新田 慎二
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